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スピネット

鍵盤に対して角度(一般的には約30度)をもって弦が張られているチェンバロをスピネット(spinet)と呼ぶ。この種の楽器では、弦の間の距離が狭すぎて通常の方法ではジャックが入れられないので、弦を組みにし、組ごとの間に設けられた大きめの隙間の間に反対方向を向いたジャックの組を設置する。

クラヴィツィテリウム [編集]
クラヴィツィテリウム (clavicytherium)は響板と弦が垂直に、奏者の顔の前にくるように立てられた楽器である。弦が地面と垂直に走るため、ジャックの動きは地面と水平になり、このためクラヴィツィテリウムのアクションは、地面に垂直な鍵盤の動きを水平な動きに変換するというより複雑なものとなっている。同様の省スペース原理は、後のアップライトピアノでも用いられることとなった[2]。

興味深いことに、現存最古のチェンバロのいくつかはクラヴィツィテリウムである。15世紀末の作例がロンドンの王立音楽大学に保存されている[3]。このことから、チェンバロ族のアクション開発初期には、クラヴィツィテリウム式のアクションも一つの可能性として模索されたものの、後には、ジャックを元の位置に戻す際に重力を利用できるという大きな利点を持った水平に弦を張ったチェンバロのアクションに席巻されたとみられている。

ただしクラヴィツィテリウムは歴史上、散発的に制作され続けており、特に18世紀にはフランドルのアルベルトゥス・ドゥランによって優れたクラヴィツィテリウムが制作されている[4]。

その他 [編集]
16世紀には、アルキチェンバロなど、大胆に鍵盤を改造したチェンバロ族の楽器が製作され、作曲技法や音楽理論に発するさまざまな調律システムの需要に応えようとした。

チェンバロやヴァージナルをオルガンと組み合わせ、両方の音を同時に鳴らすことのできるクラヴィオルガヌムのような楽器も存在する。

音域とピッチ・レンジ [編集]
一般的に、初期のチェンバロは音域が小さく、後期のものは大きいが、例外も多い。また一般的に、もっとも大型の楽器は5オクターヴ超の、小型の楽器は4オクターヴ未満の音域を持つ。短い鍵盤の楽器は一般的にショート・オクターヴを用いてバス音域を拡張している。

今日では調律のピッチはしばしば a=415 Hz で行われる。これは現代のコンサート・ピッチの標準である a=440 Hz より半音低くなる。またフランス・バロックの演奏では更に半音低い a=392 Hz もしばしば用いられる。このような調律方式は、歴史上の慣習を極めて簡潔化しているものではあるが、現代の一般的な慣習となっている。歴史的には、調律はハ音かヘ音から始められた。

構造 [編集]
チェンバロ族は大きさや外形は極めて多様であるが、内部構造の基本はみな同じである。奏者が鍵を押し下げると他端が持ち上がる。この時に他端に載っているジャックと呼ばれる薄板状の部品が瞬間的に跳ね上がり、ジャックの側面に装着された鳥の羽軸などからできたプレクトラム(ツメ)が弦を下から上にひっかいて音を出す。奏者が鍵から手を放すと、他端も元の位置に戻り、ジャックも下がり、プレクトラムは弦を回り込んで落ちるための機構「タング」の上に装着されているため、弦に強く触れない。鍵が元の位置に戻ると共に、弦の振動はジャックの上に付けられたフェルト製のダンパーによって止められる。このように、チェンバロは外見はピアノに似ているが発音の仕組みがピアノと異なり、そのため音色などもピアノとは全く異なる。また木製であるところから湿度により弱いため、調律が安定しにくく、演奏者は演奏のみならず、自ら調律の技術も要求される。

鍵(1)は単純なピボットで、鍵にあけられた穴に差し込まれたバランスピン(24)を支点として動く。

ジャック(17)は通常硬い木で作られた薄い長方形の木片で、鍵の端に垂直方向に立てられ、上下のジャックガイド(7・22、レジスターとも)で支えられている。ジャックガイドとは、スパイン(左側の長い側板)側からチーク(鍵盤右の短いまっすぐな側板部分)側まで走るギャップの中に設置される、ほぞ穴のある細長く、長方形の二枚の板で、このほぞ穴の中をジャックが上下に動く。上部のジャックガイドは可動で、下部のローワー・ガイドは通常固定されている。
ジャックの上部には、タング(図2-3)という硬い木でできた小さい可動性の部品が、イノシシの毛などを用いたバネを介して取り付けられている。タングからはほぼ水平にプレクトラム(図2-4)が突き出ており(通常はごく僅かに上方向に角度をつける)、プレクトラムは弦の下ぎりぎりの位置に設置される。歴史的にはプレクトラムはハシボソガラス等の羽軸か革で作られていたが、現代のヒストリカルチェンバロはプラスチック(デルリンかセルコン)製のプレクトラムを用いる場合が多い。
) 操作されていない状態のジャック。ジャックの一番上にはフェルト製のダンパー(図3-3)が突き出ており、鍵が押されていない時には弦の振動を止めている。

B) 鍵を押すことでジャックが上がり始めた状態。ジャックが上昇するにつれ弦に押し当てられたプレクトラムは徐々にたわんでいく。

C) プレクトラムは湾曲の限界点を超えて、弦を弾き、振動を起こす(音の発生)。ジャックの垂直に跳ね上がる動きはジャックレール(図1-6/3-1)によって止められる。ジャックレールの内側はジャックの衝撃を和らげるために柔らかいフェルト(図3-2)がつけられている。

D) 鍵から手を離すと、鍵のもう一方の端は自重で元の位置に戻り、それに従ってジャックも下に降りる。この際プレクトラムは弦に触れるが、弾力のあるタング(図3-6)の働きによって後方に退き、ほとんど音を生じることなく弦の下に戻る。その後バネ(図3-8)の仕掛けによってタングは元の位置に戻る。ジャックが元の位置まで降りるとフェルト製のダンパーが弦の上に乗り消音する。

キー・ディップ(鍵を押し下げることの出来る深さ)は通常、ジャックの長さと同じに設定される。キー・ディップが深すぎる場合、素早い連打が難しくなり、早いパッセージの演奏を妨げるため、ジャックの長さもこれにあわせて延長される(パイロットスクリューなどを使用する)。

弦と響板
弦をただ弾くだけでは、ごく弱い音しか発生しない。チェンバロの音がよく響くのは、弦の共鳴長の一端が尖ったエッジの上に載っているためであり、このエッジの部分をブリッジ(図1-9)という。ブリッジは響板(サウンドボードとも、図1-14)にしっかりと固定されている。響板は一般的にトウヒやヒマラヤスギ属(イタリアン・チェンバロの場合)の薄いパネルである。響板とケースの構造体は、弦の振動を効率良く空気の振動へ変換し、しっかりと聞き取れる音量に拡大する。また、鍵が押されている間は、一つの弦の振動は隣のペアの弦も同時に振動させる。一部の楽器には、「ダンパー・オフ」のポジションがあり、これを使用すると一つのストップ(後述)全体のダンパーが外され、他のストップで弾かれた音に反応してダンパー・オフのストップの弦が自由に共鳴するようなものもある。

弦が想定通りの音程で鳴るためには、正しいテンションで張られていなければならない。このため、弦の一端(通常は鍵盤に近い側)はチューニングピン(図1-4)に通され、ピンにあったレンチ(チューニング・ハンマー)を使って、適切な音程となるように巻き取られている。チューニングピンは堅い木で作られた長方形のレストプランク(ピンブロックとも、図1-23)にねじ込まれている。弦の他端は小さな輪を作りねじって止めたものを、ヒッチピン(図1-10)に引っかけてとめる。ヒッチピンはライナー(11)に打ち込まれている。

複弦とストップ [編集]
一音一弦のチェンバロは決して珍しくないが、いくつかの理由から複弦の楽器がしばしば好まれる。

まず、同じ長さずつの弦が二組あった場合、それぞれに異なった音色を与えることが可能となり、これによってチェンバロの音色の幅を広げられることがあげられる。音色の変化は、一組の弦はナット(ブリッジに似た弦の共鳴長を決定する構造、図1-5)に近いところで弾き、もう一組をナットから遠いところで弾くことで実現される。ナット近くで弾くと、より高音の倍音が強調され、「鼻にかかった」音色を発する。

またチェンバロはその発音構造のためキータッチによって音の強弱がつけられない。これに対して、二組の弦が同じピッチ、もしくはオクターヴ間隔になるように充分丁寧に調律されていると、一回の打鍵で両弦を同時に弾いた時には一つの音のように聞え、かつ異なる設定の二弦で鳴らされるためにより大きく豊かに響く。音色の違いはオクターヴ間隔で調律されていると特に引き立つ。
このような弦の各組はオルガンの用語を用いて、ストップ、もしくはレジスターと呼ばれ、特定のチェンバロについて述べる際には、弦のストップの種類を示すのが慣習となっている。この楽器固有のストップの組合わせのことをしばしばディスポジションと呼ぶ。

一般的なストップの種類として、8フィート・ストップは通常の音高に張られた弦であり、これに対して4フィート・ストップはオクターヴ高く鳴る。同様に、稀に用いられる16フィート・ストップはオクターヴ低く、2フィート・ストップは2オクターヴ高く鳴る。その他、ミュートによってリュートに似た柔らかい音色を得ることなども行われる。

ストップが複数ある楽器では、奏者がいつでもストップを操作できるような機構が備えられることも多い。これは一般的にはジャックを複数(一弦に1つ)設置し、上のジャックガイド(アッパー・レジスター)を少し横に動かし、プレクトラムが弦に触らないようにして、一組のストップを「切る」ことで実現される。

簡潔な構造の楽器では、ストップの操作は手で直接行われるが、チェンバロ史上のさまざまな開発により、鍵盤の脇にレバーを設けたり、膝レバー、ペダルなどでストップを操作する機構が発明された。

更に、楽器に複数の鍵盤(マニュアル)を備えることで、各鍵盤が特定のストップの組合わせを弾くように設定でき、ストップの選択の柔軟性が増す。

これに加えて、下鍵盤の鍵が上鍵盤の鍵と連動するようなカプラー機構が備えられる場合も少なくない。カプラー機構には主に2種類あり、もっとも柔軟性の高い機構は、フランス式の引き出し連結方式(英:French shove coupler, 仏:tiroir)で、下鍵盤が前後にスライドするようになっている。主鍵盤をわずかに手前にずらすことによって、下の段の鍵盤に取り付けられた垂直方向のクサビ状の突起が上の段の鍵盤の端の下に入る。この状態で下段鍵盤を操作すると同時に対応する上段鍵盤が連動する(逆に上段を操作しても下段鍵盤は連動しない)。鍵盤とカプラーの位置の選択によって、奏者は図5におけるジャックA、BとC、および3つ全てという選択肢を得る。

もう一つはイギリス式の連結方式で、ドッグレッグ・ジャック機構(英:dogleg jack system)などと呼ばれる。この場合、鍵盤はどちらも固定されており、フランス式のようにずらして使用することはない。従鍵盤の鍵は「犬の足」(ドッグレッグ)状にくぼみのつけられたジャック(図6-A)の下にもぐりこんでおり、ジャックのくぼみによって、下鍵盤を操作しても上鍵盤を操作してもジャックAは動く。一方、下鍵盤は常に3つのジャック全てを動かし、フランス式のようにジャックBとCだけを動かすということはできない。

カプラーを有効にすると、下鍵盤では強音演奏、上鍵盤では弱音演奏の弾き分けが可能となる。弾き分けは上下鍵盤への手指移動だけで演奏中に瞬時に行えるので、強弱の対照表現を楽曲の中で頻繁にしたい場合、2段鍵盤の楽器を選択することが多い。

なお、チェンバロ族における複数鍵盤の使用は、もともとは弾く弦の選択のためではなく、移調のためであった。

ケース [編集]
ケースは、ピンブロック、響板、ヒッチピン、鍵盤、ジャックなどの重要な構造体全てを納め、支える部分である。通常は頑丈な底板をもち、弦の張力によって楽器がゆがむのを防ぐための副木が内部に張られている。また蓋などの開け閉めや付け外しによっても、ある程度の音量調節が可能である。

ケースの重さおよび頑丈さは極めて多様である。イタリアン・チェンバロはしばしば極めて軽いケースを使用するのに対し、後期のフレミッシュ・チェンバロやそこから発展した各様式の楽器はより重い構造を持つことが一般的である。
ケースはまた、楽器の外観を決め、楽器を保護する役割も果たす。18世紀のチェンバロは、一種の家具でもあり、専用の足の上に据えられ、時代と地域固有の家具の趣味に合わせた様式に調えられることが一般的であった。ただし、このような考え方は時間をかけて発展したものであった。初期のイタリアンの楽器はとても軽く、むしろヴァイオリンのように扱われ、弾かない時には楽器を保護するためのアウターケースにしまわれており、弾く時にはケースから取り出し、テーブルの上において弾かれていた[5]。なお、こういった時に用いられたテーブルは、18世紀後半までは立って弾くことが一般的であったところから、かなり高いものが用いられたと考えられている[6]。次第に、チェンバロはアウター、インナーの区別なく、一つのケースを持つように制作されるようになったが、この中途には「フォルス・インナー・アウター」(偽インナー・アウター)という、実際にはケースは楽器と一体なのにもかかわらず、あたかも旧来の様式のようにアウターケースの中にインナーケースが納められているかのように見せる様式も存在し]。

また、楽器とケースが一体化した後も、多くの楽器では本体と足が別々、もしくは分解可能で、比較的簡単に持ち運びができる。楽器と足が一体化するのは漸次的であった。

ケースがもっとも発達した段階の楽器では、開けられる蓋、鍵盤のためのカバーおよび譜面立てが備えられている。

チェンバロの装飾もまた多様である。黄褐色の塗り(一部のフレミッシュ)、文様の印刷された紙、革もしくはベルベッドのカバリング、シノワズリ、また時には非常に技巧を凝らした絵画が描き込まれたりした[8]。バロックからロココ期の宮廷においては、特にケース蓋の裏に宮廷風の豪奢な装飾が施されたものがある。

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2009年04月10日 17:21に投稿されたエントリーのページです。

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